「殺人、竊盜、誘拐、密売。
悪魔に魂を売り渡すかの様に、金になる事なら何でもやった。
問うべきは手段ではない。その男にとって目的こそが全て。
切実な現実。彼には金が必要だった。
傾き続けてゆく天秤。その左皿が沈みきる前に、
力盡くでも浮き上らせるだけの金が右皿には必要だった。
そしてその夜も天秤は仮面を躍らせた」
闇を纏うように 夜のしじまを探り
目と目を見つめ合って
ロマンティックな月明かりに
そっと唇重ね息を潛めた
慌ただしく通り過ぎる 追手達をやり過ごし
手と手を取り合って
ドラマティックな逃避行為に
酔った二つの命 愛に捧げた
さよなら
権力の走狗共には便利なカード
さよなら
娘を売れば至尊への椅子は買える
身分違いの戀 許されないと知っても
雄と雌は惹かれあった
サディスティックな貴族主義を蹴って檻を抜け出す
あぁ、それは悲劇
運命はボードの上で 支配力を求めて
生と死は奪い合った
ドラスティックな追討劇を 笑う事こそ人生
あぁ、むしろ喜劇
さよなら
コインで雇ったものが裡切る世の中
さよなら
他人ならば不條理と責めるは慘め
「楽園への旅路。自由への船出。逃走の果てにたどり著いた岸辺。
船頭にふんした男が指を鳴らすと、黒衣の影が船を取り囲んだ」
『お帰りの船賃でしたらご心配なく。既に十分すぎるほど頂いておりますので。
けれど彼はここでさよなら。
殘念だったね―――』
娘さえ無事に戻るならばそれで良い
男の方などバラしても構わんわ
一度も目を合わせずに伯爵はそう言った
コインが詰まった袋がテーブル叩いた
いつも人は何も知らない方が幸せだろうに
けれど人は求めるかぎり全てを知りたがる
なぜ破滅へと歩みだす
「華やかな婚禮。幸せな花嫁。
運命の女神はどんなシナリオを好むのか。
虚飾の婚禮。消えた花嫁。
破滅の女神はどんな微笑みも見逃さない。
あぁ燃えるように背中が暑い。
その男が伸ばした手の先には何かが刺さっていた。
あぁ赤く染まった手を見つめながら、
仮面の男は緩やかに崩れ落ちてゆく。
あぁその背後には娘が立っていた。
淒まじい形相で地についた男を凝視している。
あぁ一歩後ずさり何か叫びながら、
深まりゆく闇の中へと走り去っていった。
徐々に薄れ行く意識の水底に、
錆付いた鍵を摑もうと足掻き続ける。
扉は目の前にある。
―――急がねば、
もうすぐ…もうすぐ約束した娘が」
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